英国駐在の頃、いつも当惑したのが、英語のジョークがわからないことでした。パーティに出ていても、挨拶をする人がジョークを連発しているのに、さっぱりわからなくて、顔がひきつったような状態で、笑ったふりをすることしかできず、いつも悔しい思いをしていたものでした。
しかし、その後、ヨーロッパの友人の助けをかりて「研究」した結果、ついに英語のジョークにも言葉の「シャレ」を題材としたものがあることがわかり、それなら自分にもできる、と思いなおして、ジョークを言う機会を、ひそかに、いつもねらうようになりました。
その結果、努力の甲斐あって、やってみたら「これはうまくいった。」と思えるものが、わずかですがありました。
その中で、二つの例をご紹介したいと思います。
一つ目は、話題が古くて恐縮ですが、アメリカの大統領選挙にまつわるお話です。だいぶ昔のことですが、仕事でアメリカの国務省の課長とパリで食事中、その場面に巡り合いました。その課長が、「今度の共和党の大統領候補、副大統領候補は、それぞれブッシュとクウェイルだ。」と教えてくれました。
チャンス到来です。私は即座に「それは、非常に良い組み合わせだ。」と応じました。当然相手は、「なぜあなたはそう思うのですか。」と聞いてきます。そこで私がにっこりして、「だって、クウェイル(副大統領候補ご本人とスペルは違うが、クウェイルは英語で「うずら」のこと)は、いつもブッシュ(藪)の中にいるじゃないか。」と言ったら、予想以上に相手に受けたのです。
英語に関心があり、「うずら」を英語で何というか記憶していたことが、英語でジョークを放つ機会を与えてくれたのです。
次は、英国での勤務先でのことです。勤務していたある日本人が帰国するので開かれた送別会で、テーブルに並べられた、今まで見たことのない揚げ物が気になりました。そこで、近くにいた若い英国人女性に「これは、何ですか。」と聞いてみました。するとその女性が、「私たちが近くのギリシャ料理店で買ってきたものよ」と言います。私は、やや声を大きくして「They are all Greek to me.」と言ってみました。このとき、嬉しいことに、そばにいたある英国人男性から、「Well-done(お見事!).」とのお褒めの言葉がいただけたのでした。
では、なぜ、私の言った言葉がその英国人に受けたのでしょうか。
それを解くカギは、「Greek」という言葉にあります。「Greek」は、「ギリシャの」という意味のほかに、「チンプンカンプンだ」という意味があるからです。これは、アングロサクソンたちには、ギリシャ語は、「さっぱり意味のわからない」言葉だったからでしょう。高校の授業で習ったそんな「つまらない知識」が、思わぬところで役に立ったわけです。
このように英語でジョーク(シャレの形で)をいうためには、「ネタ」を沢山自分の頭の引き出しにためておき、すぐ取り出せるようにしておくことが、秘訣だと思っています。
私にとっての「ネタ」の例を一つ挙げますと、例えば「polish」という言葉に注目できます。この言葉は、「磨く」という意味と「ポーランドの」の二つの意味を持つので、いつか使えるチャンスが来るのではと、頭の中の手前の引き出しにしまっています。かつて、英語の達人である市河三喜先生が、この言葉を使って見事な英語のシャレを言われたと聞いたことがあります。しかしながら、凡人の私には、そのチャンスはまだ来ていません。