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談話室

静川 靖敏 男声合唱組曲「富士山」を仕上げるにあたって

男声合唱組曲「富士山」は1956(昭和31)年に多田武彦(当時26歳)が草野心平の詩集「富士山」から5つの詩を選んで作曲したものですが、この曲は銀行マンの傍ら「日曜作曲家」としてスタートした多田が、1954年の男声合唱組曲「柳河風俗詩」に続いて作曲した第2作で、前作「柳河風俗詩」が師の清水脩に「概ね良く出来ているが、歌い手の声域を気にし過ぎている。男声合唱曲はもっとスケールの大きいダイナミックなものにしなければいけない」と評されたので「富士山」では「声域を気にしすぎずに力強くスケールの大きい曲」に仕上げました。そのせいもあって、高音部の展開や器楽的な音の動きで皆さんにはご負担を強いることになりますが、ご辛抱をお願いします。俗に「多田節」とか「タダタケ節」と言われる日本的叙情溢れるメロディーと和声の特色を大いに楽しんで頂きたいと思います。

ご承知のように多田武彦作品は「詩」の選択眼の優秀さに定評があり、選び出した詩に逆らわず寄り添うようにその「詩」がもつ韻律を引き出して、豊かな叙情性を持った優美な旋律と男声合唱特有の機能を最高度に生かした独特の世界を形づくっています。この「富士山」も草野心平の代表作であり、一通り音取りを終えて仕上げに入る前に、今一度巻末に収録された詩をじっくり鑑賞して下さい。そして色とりどりの色彩と情景を頭に思い描いて下さい。優れた詩を歌うだけに、一層「言葉の美しさ-日本語の発音」を大切にすることを心がけたいと思います。

次回から各曲ごとに発信しますが、各曲の小節番号を示して記載することが多くなると思います。この曲に取組む最初の時点で小節番号の確認を済ませていますが、未だ楽譜に小節番号を記入しておられない方は次回発信までに記入をお忘れなく。